FLP国際協力プログラム清水ゼミC生
中央大学法学部政治学科4年
小野詩織
1. 初めに
本論文はモンゴルと日本両国の友好関係を持続的な形成を実現していくことを目標とするにあたり、「観光」という視点から日本モンゴル両国の友好関係促進を目指すため、日本人の観光客をどのように増加させていくかを考察する。その上で、本論文では日本人のモンゴルに対する印象、海外旅行への関心度を調査し、それを明らかにしたうえで、モンゴルへの観光に対してどのような課題があるのか、その課題を解決するためにはどのような改善策が検討させるかを解明していく。本論文の構成は、まず、モンゴルへ日本人が観光するうえでの課題を分析するために実施した調査の概要を説明し、次に調査結果を踏まえて問題を提起する。その後、モンゴルの観光の現状を踏まえたうえで改善策を検討していく。
2. 調査の概要
本章では、調査の結果を踏まえる前に調査の概要を記述する。
調査は大学生の海外旅行に関する意識調査とモンゴルに対する学生の関心の程度の把握を目的として実施した。日本人大学生・大学院生625人を対象にGoogle Formsのアンケート機能を活用して、2022年5月28日~7月7日の期間に実施した。質問は15問設置した。1)その内訳は回答者の属性を問うものが2問、モンゴルに対する学生の関心度を把握するものが6問、海外旅行に関する意識調査が7問である。属性は学年と性別を質問した。学年を問うものでは「大学1年」、「大学2年」、「大学3年」、「大学4年」、「大学5年」、「大学6年」「修士1年」、「修士2年」、「その他」の9項目を設置した。調査結果は「大学1年」が15.7%(98人)、「大学2年」が25.4%(159人)、「大学3年」が28.6%(179人)、「大学4年」が27.8%(174人)、「大学5年」が4人(0.6%)、「大学6年」が0.3%(2人)、「修士1年」が0.3%(2人)、「修士2年」が0.3%(3人)「その他」が0.6%(4人)であった。性別を問うものでは、「男性」、「女性」、「その他」の3つの選択肢を設置した。結果は「男性」が48.3%(302人)、「女性」が50.7%(317人)、その他が(6人)であった。
3. 問題提起
本章では、日本人の若者がモンゴルに観光する場合、現状、何が課題であるのかを明らかにする。明らかにする方法として、モンゴルでの観光に関する設問と海外全般の観光に関する設問の回答を比較して問題を設定する。そして、その問題を、調査結果を掘り下げて分析する。
本調査では、モンゴルでの観光に関する設問と海外全般の観光に関する設問を「モンゴルに旅行/海外旅行をしたことがありますか。」、「コロナが収束したらモンゴルに旅行/海外旅行をしたいと思いますか」という設問をそれぞれ設置した。前者の質問では回答者の実際の経験を問い、後者の質問では回答者の主観を問うものに設定した。このような質問を設けたのは、回答者がモンゴルの観光と海外の観光どのような印象があるか、客観的な事実と主観的な印象の観点からそれぞれ明らかにするためである。「モンゴルへ旅行したことはありますか」という設問の結果は、「ない」が98.7%(617人)、「一回ある」が1.1%(7人)、「2回ある」が0%、「3回以上ある」が0.2%(1人)であった。この結果から、モンゴルへ旅行したことがあるのが全体の1.3%であることが分かる。他方で、「海外に旅行したことはありますか」という設問の結果は、「はい」が68.8%(430人)、「いいえ」が31.2%(195人)であった。つまり、日本の大学生の内、モンゴルに行ったことがあるのは約1%であり、海外に旅行したことがあるのが約69%であるといえる。「モンゴルに旅行したいと思いますか」という質問に対しては、「はい」と回答したものが、21.4%(134人)、「いいえ」と回答したものが48%(300人)、「わからない」と回答したものが30.6%(191人)であった。以下が右質問のグラフである。
「モンゴルに旅行したいと思いますか」という設問においては理由を記入する欄を設け全体の39.84%(249人)が回答した。選択肢の回答率は「はい」と回答したものは55.97%(75人)であった。他方、「海外に旅行したいと思いますか」という設問の結果は、「はい」が551人(88.2%)、「いいえ」が41人(6.6%)、「わからない」が33人(5.3%)であった。以下右質問のグラフである。
ここから、海外へ旅行したいと考える学生は88.2%いるのに対して、モンゴルへ旅行したいと思う学生は21.4%しかいないことが分かる。ここから、事実としてモンゴルに旅行したことがあるのは日本の大学生の約1%程度であること、モンゴルに旅行したいと思う日本の大学生は海外に旅行したいと思う日本の大学生の約4分の1であることがわかる。このことから、今のモンゴルのままでは日本の大学生はモンゴルに観光に来ないことが、現在のモンゴルの観光における問題であるといえる。
次にこのままでは日本の学生がモンゴルに来ないという問題をさらに掘り下げて分析する。そこで、日本の若者のモンゴルに対してどのような価値観を抱いているのかを考察する。「モンゴルに魅力を感じますか」という質問の結果を以下の表にまとめた。
表から「とても感じる」と回答したものが9.3%(55人)、「やや感じる」が30.6%(191人)、「どちらともいえない」が28.8%(180人)、「あまり感じない」が25.1%(157人)、「全く感じない」が6.2%(39人)であった。このことから、全体のうち、「とても感じる」、「やや感じる」と回答した39.3%(246人)がモンゴルに魅力を感じており、「あまり感じない」、「全く感じない」と回答した31.3%(196人)がモンゴルに魅力を感じていないことが分かる。この「モンゴルに魅力を感じますか」という問いは回答とともにその理由を記述する設問を設けた。「モンゴルに魅力を感じますか」の回答別に多かった理由を1位から3位まで挙げると、「とても感じている」と回答した者は「自然に魅力を感じる」、「文化・暮らしに魅力を感じる」、「歴史に魅力を感じる」であった。「やや感じる」と回答した者は、「自然に魅力を感じる」、「文化・暮らしに魅力を感じる」、「歴史に魅力を感じる」であった。「どちらとも言えない」と回答した者は「モンゴルのことを知らない」、「観光地としてのイメージがない」、「不便そう」であった。「あまり感じない」と回答した者は「モンゴルの事を知らない」、「草原しかなさそう」、「魅力的に思うものがない」であった。「全く感じない」と回答した者は「モンゴルの事を全く知らない」、「魅力的に思うものがない」、「何もなさそう」であった。ここから、「どちらともいえない」、「あまり感じない」、「全く感じない」という3つの回答の理由の内、約58.2%(71票/122票)が「モンゴルのことを知らないから」と回答した。従って、魅力を感じていない層、言い換えるとモンゴルという国に興味がない層の多くの理由はモンゴルを「しらない・何があるかわからない」というものであった。以上より、私たちは日本人の若者がモンゴルに観光しないのは、モンゴルがどんな国で何があるのか知らないからであるといえる。たとえ、モンゴルの観光資源自体が豊富であったとしても、モンゴルを知らなければ、日本の大学生が海外旅行をしようとしても行先の候補に入ることすらできない。そのため、モンゴルに観光に来てもらうにはまずは「モンゴルがどのような国で何がある国なのか」を知ってもらう必要がある。
4. 施策提案
本章では、モンゴルがどんな国でモンゴルに何があるのか知らないため、モンゴルに観光しないという前章で提起した問題に対して、どのような施策を提案すれば日本人の大学生が、モンゴルがどんな国で何がある国なのかを知ることが出来るのかを検討していく。本章では施策提案を目的として、最初に、調査の結果を踏まえて日本人の大学生が海外観光するうえでの特色を考察する。次に、その特色とモンゴルの観光の現状を照らし合わせて検討し、最後に施策の有効性について考察する。
日本の大学生が海外で旅行をするにあたってどのような情報を手に入れるのかを考察するために、「海外旅行するにあたってどのような手段で情報を手に入れますか。」という設問の結果を踏まえる。結果は以下のとおりである。
ここから、日本の大学生の半分以上は、インターネット87.04%(544票)、インスタグラム51.04%(319票)を海外に観光するときに情報を得る手段として使用していることが分かる。従って、モンゴル国の観光局及び観光関連各所のインターネットサイト・インスタグラムでの情報発信を強化していくことが日本人の学生にモンゴルを知ってもらうのに有効であるといえる。
しかしながら、モンゴルの観光に関する情報発信の現状を見てきたが、観光に関する情報を発信する場合にどのような情報を載せるのが望ましいのだろうか。日本の大学生が海外で旅行するときにどのような情報を重視しているのかを、設問「下記の選択肢の中で海外旅行をする際に重視する点を選択してください。」の回答結果から考える。結果は以下に記載する。
この質問では、「その国でどのような体験ができるのか」、「その国で観光するときに必要な情報」の2つに11個の選択肢を分けることが出来る。前者は、「ご飯がおいしいか」、「その土地でしかできない体験ができるか」、「非日常感を味わえるか」、「同行者と充実した時間が過ごせるか」、「リラックスできるか」、「冒険心を満たせるか」が該当する。後者は「治安が良いか」、「航空費・交通滞在費」、「インフラが整備されているか」、「言語が通じるか」、「物価が安いか」が該当する。調査結果から、「その国でどのような体験ができるのか」に該当する選択肢の全体順位は2位、3位、6位、8位、9位、10位であり、「その国で観光するときに必要な情報」は1位、4位、5位、6位、11位であった。このことから、どちらの性質であるかに関わらず重要視されている点から、その二つの情報がどちらも重要であることがわかる。そして、2つの情報がどちらも大事であることが見てとれる上記を踏まえると、国の文化、言語、交通情報等の最低限の基礎知識を載せたうえで、モンゴルにいったらどんな観光名所があるのか、どのようなアクティビティを体験できるのか、どのような料理が食べられるのかなどの「どのような体験ができるか」という軸、治安は良いのか、インフラの整備状況、物価がどれくらいかなどの「観光する際に必要な情報」という軸の2つの軸で情報を発信することで、日本人の大学生の「モンゴルがどんな国で何があるかわからない」という状態を解消し、海外旅行に行くときにモンゴルを候補の選択肢として検討してもらうことにつながる。以上の結果から、この2つの性質の情報を発信することで日本の大学生が海外旅行をする際にモンゴルという選択肢が生まれうる。
現状として、日本人の大学生はモンゴルの観光に関してどのような情報を入手することが出来るだろうか。ここでは、日本の大学生が海外に旅行をする際に特に重要視しているインターネットサイトやインスタグラムでのモンゴル政府の情報発信に関して着目し、観光に関して積極的な施策を推進しているタイと比較して考察する。インターネットサイトに関しては、在モンゴル日本大使館の公式Twitterで2022年9月12日にモンゴル政府がモンゴル観光情報に関するプラットフォームサイトを立ち上げた旨を発表しており、サイトのURL2)が張られている。サイトでは日本語を含む7か国語対応しており、観光地やイベントの紹介など、「どのような体験ができるか」に関する情報を発信している。しかし、現状としてgoogleで日本語や英語で「モンゴル 観光」と検索してもモンゴル観光局のホームページが見つけることはできなかった。また、サイト内にはモンゴル旅行デジタル雑誌3)があり、アプリとしてインストールすることは可能ではあったが、アプリはモンゴル語のみであり、日本人の大学生がモンゴルの観光に関する情報を得ることは難しいといえる。これは最も信頼できる情報源がないのに等しいといえる。他方で、タイ国政府が取り組んでいる官公庁の案内サイトではタイ王国の基本知識から目的別のおすすめ旅行ルートまで示しており、タイに旅行する場合に必要な情報はすべてこのサイト内で調べることが可能である。インスタグラムの発信に関しては、2023年1月16日現在でモンゴル、タイ両国ともに政府の観光関連の局庁が発信している。4)5)両国の発信には主に2点違いがみられた。1点目は投稿頻度である。投稿頻度は高ければ高いほど新鮮な情報を得ることが出来るため、観光に関する情報を集める際には重要である。モンゴル政府は一番最近の投稿が2022年12月24日で、二番目に細心の投稿が2021年12月16日と投稿日が1年ほど空いている。他方タイ政府は毎日ひとつ投稿している。従って、現状、日本の大学生は観光に関する最新の情報をタイのものは十分に入手できるが、モンゴルのものはほとんど入手できない。2点目は一つの投稿で得られる情報量である。モンゴル政府は2023年1月16日現在に投稿されている26投稿の内、モンゴルのどこで撮影した写真かわかるのが6投稿のみであり、写真の場所にアクセスするのが難しい状態である。一方タイ政府は風景や飲食店の写真に関してはすべてどこで撮影したものかを記載しており写真の場所にアクセスすることが可能である。従って、モンゴル政府はタイ政府に比べてインスタグラムで新鮮な情報を獲得するのが難しく得られる情報も少ないといえる。加えて、政府以外の観光に関する情報に関しても、現状としてモンゴルで有数の観光名所であるザナバザル美術館はモンゴル語版と英語版に対応しているが、モンゴル語版は常設展示や特設展示の情報が詳細にわかるのに対し英語版では料金や開館時間の基本情報が分かるのみで展示物の情報が一切ない。このことから、日本人がモンゴルの観光情報を調べても必要な情報を見つけるのが難しいことが分かる。
(写真):ザナバザル美術館のHP
以上を踏まえて、日本人の大学生の多くが海外観光をする際に情報をインターネットやインスタグラムから入手しているが、モンゴルの政府および観光関係各所では観光に関する情報を積極的に発信しておらず、日本人の大学生がインターネットやインスタグラムからモンゴルの観光に関する情報を入手するのは簡単ではないといえる。従って、そこで、モンゴル政府やモンゴルの観光関連各所は「モンゴルでどのような体験ができるのか」、「モンゴルで観光するときに必要な情報」をインターネットやインスタグラムで発信することが問題解決につながるといえる。
情報を発信していくことは「モンゴルがどんな国でモンゴルに何があるのか知らないため、モンゴルに観光しない」という問題に有効な施策だといえるだろうか。これを考察するために調査をした625人のうち、モンゴルに実際に旅行に行ったことのある8人に絞った場合の調査結果を使用する。属性に関しては、性別は8人全員女性であった。「モンゴルに旅行したことがあるか」という質問では7人が「1回ある」、1人が「3回以上ある」と回答した。コロナが収束したらモンゴルに旅行したいか」という質問に対しては、8人全員が「はい」と回答した。「モンゴルに魅力を感じるか」という質問の回答は、5人が「とても感じる」、2人が「やや感じる」、1人「全く感じない」と回答した。このことから、モンゴルに旅行したことがある人はまたモンゴルに旅行したいと考え、モンゴルに魅力を感じる傾向にあることが分かる。従って、一度モンゴルに旅行すれば、魅力を感じ、再びモンゴルに旅行したいと考えるほど高い満足感を得ることが出来ることが分かる。ここから、モンゴルの観光情報を発信することは日本人の大学生が旅行国の一つとしてモンゴルを検討するようになり、モンゴルに旅行に行く可能性が上がることから、モンゴルに旅行に訪れれば、魅力を感じやすくなるため、施策は有効であるといえる。
5. まとめ
本論文では、「観光」という視点から日本とモンゴル二か国の友好関係促進を目指すため、日本人の観光客をどのように増加させるかを検討することを目的とし、日本の大学生を対象に調査を実施し、日本の大学生とモンゴルの観光との問題を明らかにし、解決につながる施策を提案した。第2章では調査の概要を記述し、第3章ではモンゴルがどんな国でモンゴルに何があるのか知らないため、モンゴルに観光しないという問題を提起した。第4章では「その国でどのような体験ができるのか」、「その国で観光するときに必要な情報」のどちらの情報も発信することで日本人大学生が海外旅行をする際にモンゴルという選択肢が生まれ、日本の大学生の多くがインターネットやインスタグラムで情報を入手する手段として選択しているが、モンゴル政府や観光関連各所はインターネットやインスタグラムで発信している情報が少ないことがわかった。そこで、モンゴル政府やモンゴルの観光関連各所は「モンゴルでどのような体験ができるのか」、「モンゴルで観光するときに必要な情報」をインターネットやインスタグラムで発信するという施策を提案した。また、調査結果からモンゴルに一度訪れたら日本の若者は高い満足感を得ることができることがわかったことからも、観光国の一つとして選択肢に入れるために「モンゴルでどのような体験ができるのか」、「モンゴルで観光するときに必要な情報」を積極的に発信することは有効な施策であるといえる。モンゴル政府は観光振興を目的に2023年~2025年を「モンゴル観光の年」と決定している。日本人がモンゴルを観光することはモンゴルの経済促進につながり、日本ではモンゴルを魅力に感じる人が増え、将来的な友好関係の形成につながるため、双方が利益を享受することが可能だ。そのため、モンゴルの観光に関する情報を発信することは、両国にとって非常に大切であるといえる。
【脚注】
1)サンプル数が6(大学1年~修士2年)、サンプルサイズが625、日本の大学生数が291万7998人(文科省)であることを踏まえると、信頼レベル95%、回答比率0.5%の場合、必要なサンプルサイズは384.1であることから調査結果は実際の日本の大学生の回答を反映しているものであるといえる。
2)mongoliatravel.guide/jp
3)Magazine | Mongolia Travel
4)モンゴル政府観光局(ユーザー名:mongolia_2030)
5)タイ政府観光庁(ユーザー名:amazingthailandjp)