
中村さんのご経歴
大学卒業後、大手建設会社へ就職したのち7年勤務。その後青年海外協力隊へ応募し
モンゴルと出会う。現地で建築関係の会社を起業などした後、現在の日本法センターで専門家として着任。
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モンゴルで働くことになったきっかけを教えてください。
実は協力隊の合格通知がたまたまモンゴルとなっていただけなんですよね。私の希望は第一志望がベトナム、第二希望はベリーズ、第三希望はザンビアでした。ですが何かの縁からモンゴルで勤務することになりました。
私はコメディアンの植木等さんが好きで、彼が出演していた日本の高度経済成長期をテーマとした映画から、そうした時代に対し憧れがありました。協力隊で勤務していた際のモンゴルの姿が丁度かつての日本の高度経済成長期と似たような部分があり、この国はこれからすごく伸びるのではないかと直感で感じました。協力隊をやめた後は、大学の同期と共にモンゴルで会社を起業しました。私と友人は建築分野を大学で専攻していたため、建築関係の仕事も始め順調に規模を拡大していきました。
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日本と比較した、モンゴルでのビジネスの違いなどございますか?
私としては、日本で企業する方が難しいと感じています。確かに初めてモンゴルでビジネスをする際には、言葉や現地の法律を理解することなどの壁はあります。ですが、そうした点は自分が勉強をしてしまえば解決できる点です。日本のマーケットには数多くの低価格で高い品質を保つライバルが存在する所謂レッドオーシャンです。比較してモンゴルにはまだライバルが少ないブルーオーシャン。そうした面を比較すると日本のマーケットの厳しさはモンゴルとは比較にならない程です。モンゴルではまだ数多の分野のビジネスがスタート出来る魅力がありますね。
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モンゴル人とビジネスをする際に感じる大変さ、日本文化との違いは何でしょうか?
私自身そこまでモンゴル人と仕事をしていく中で、不都合は感じていません。確かに多くの方は、外国人と仕事をしていく中で、文化の違いからビジネスのやりにくさをイメージされていると思います。モンゴル人の方も日本と比較すると報告連絡相談が苦手な文化であったりします。しかし、全ての人がそういう訳でもなく逆に日本人でもそうした面が苦手な方もいます。一方日本人と比較して外国人の方の方が仕事に対して必死に取り組む姿勢を持っていると感じています。私はもっと多くの外国人の方とビジネスがしたいですね。なので、多少のビジネス文化の違いはあってもあまり関係ないかなと考えています。
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長年のモンゴルでのビジネス経験を通じて感じる変化とは?
生活面においては20年前と比較して街が非常に明るくなったと感じます。かつてはウランバートルの中心地においても非常に暗かった印象です。これはモンゴルが遂げてきたインフラや国としての発展が寄与している証ではないでしょうか。
ビジネス面においては、20年前と比較しビジネスを行いにくくなった印象があります。20年を通して、ビジネスの分野も様々な法整備が行われていき多くの規制が掛かるように変化しました。かつては外資系企業の立ち上げに掛かる資本金も非常に安く、モンゴル進出が初めての経営者に対してもハードルが低い状況でした。しかし現在は資本金の引き上げが行われています。加えて配当金に掛かる税率も変化し、会社の規模が大きくなればなるほど多額の税金を徴収されるように法整備が行われてきています。こうした変化は、モンゴルでビジネスを行うメリットを減少させてしまう一つの原因になってしまいます。外資系企業のモンゴル進出のハードルの高さは決して低くはないというのが現状です。
また、モンゴルの法律は非常に分かりにくい記載の仕方をしています。条文の中で1文が7行ほどあり主述の関係がモンゴル人でさえも中々理解しづらいものとなっています。経営者はコンプライアンスを重視していくことも非常に重要になってきます。外国人の経営者には一つの障壁になり得るでしょうね。
20年間を通じモンゴルは国として非常に発展を遂げてきました。しかしまだまだ改善すべき点もあると考えています。例えば数多くの外資系企業が参入している中国やタイと比較すると、まだまだ外資系企業に対する優遇措置などは少ないのが現状です。税金面の優遇や、インフラの整備を行った上で外資系企業を誘致するのが二か国なのに対し、モンゴルでは開発する土地のみの提供といった場合もあります。そこへ至るインフラへの整備や税制への優遇の不足が外資系企業のモンゴルへの進出を妨げていると言えると思います。
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海外でビジネスを行う日本の企業が求められてくる力とは?
近年、グローバル化という言葉が多用されています。私は、日本企業はグローバル化ではなく国際化していくことが重要ではないかと考えています。グローバル化と国際化の違いとしては、前者は世界の基準にすべてをマッチさせていくということで、後者は必要な部分を国際基準に対応させていくということです。なぜ私がこうした言い方をした理由は、日本人の民族としての特殊性や価値観から生まれた重要な文化が日本企業には沢山存在しているからです。日本のものづくりの品質の高さや管理の高さ、日本的なおもてなしの精神など様々な分野において世界中から評価されています。そうした部分を変化させ無理に合わせていく必要はないと考えています。勿論外国の文化を取り入れないという訳ではありません。グローバル化という言葉の下、機械的にすべてを世界と合わせていくのではなく、互いの良い部分を尊重しつつ合わせるべき部分は合わせていく。そうした「国際化」が今後日本企業には求められてくるのではないでしょうか。20年間モンゴルでビジネスを行い、年を追うごとに沢山のモンゴルの事を理解してきましたが、それと同時にまだモンゴルを理解できていない部分も沢山あると実感しています。外国人には分からない、モンゴル人にしか分からない、掴めない部分や価値観があると思います。そうした面に対して常に相手の立場を考え向き合っていく姿勢を持ち続けることも重要であるように思えます。
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中村さんが感じるモンゴルの観光分野での課題とは?
インフラの整備を挙げると、大きなスケールのプロジェクトを完成させることも重要ですが小さなステップも大事にしていくことが求められるのではないでしょうか。例を挙げるとウランバートル市内の路線バスはモンゴル語のみの行先表示です。またバスの運行ルートの表示が不足しており外国人観光客に優しい作りになっているとは言い難いです。またタクシーの整備も不十分です。こうした観光地を下支えする分野を固めないまま新たな施設を建設しても、中々観光客が訪れたいとは思いにくいと感じます。ウランバートル市内以外にも魅力的な地域が沢山存在しているのにも関わらず、交通機関の整備の遅れが原因で観光客の足を止めてしまっている現状は非常にもったいないですね。
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中村さんの今後の展望、目標を教えてください。
あと残り2年JICAの任期を残しています。この期間を使って私のモンゴルでの経験を書籍にまとめ、次の世代の人材へ向けての情報の発信をメインに行っていきたいと考えています。そして一つ挑戦してみたいことがあります。私は今までの20年間はモンゴルの人に支えられてきました。今度は日本にいるモンゴル人の方を何か手助けすることが出来る仕事に就きたいと考えています。入管手続きなど外国人には理解が難しい法律の分野など沢山あると思います。そうした部分に私が今までモンゴルで培った経験や知識を使い手助けできる存在になりたいと考えています。
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最後に中村さんおすすめのモンゴルの観光地、料理を教えてください。
私のおすすめの観光地は特定のスポットというよりは、何気ないモンゴルの地方に残るいい意味で何もない原風景がモンゴルの良さを感じ取ることが出来ると思います。鉱山へ続く道中から見る夕暮れや日の出、具体的にどこというよりも広大な草原のとある場所から望む景色にモンゴルとしての魅力が詰まっているのではないでしょうか。ゴビへ向かう道中の特に名のある場所では無いのですが、そこから見た日の出と遠くに見えるラクダの群れが非常に幻想的で今でも印象深く残っています。
おすすめの料理は、ヤギのボードグですかね。友人の結婚式に参加した際に食べたのですが、非常に美味しくまた食べたいと思います。ただ、非常に手間のかかる料理でモンゴル人もあまり作りたがらないのが少し残念です(笑) もう一つ、クダムというステーキ屋さんがモンゴルにあるのですが、そこの「32番」のステーキが日本に滞在している際にも味が懐かしく感じられます。お肉は赤身で固い歯ごたえなのですが、非常にワイルドな味わいがたまりません。
最後になりますがこの場を借りて、大変お忙しい中にもかかわらず快くインタビューをお受けいただいた中村さんにお礼申し上げます。