モンゴルに3回赴任したベテラン商社マンが語るモンゴルでのビジネスとは?

住友商事 建設機械事業本部 藤原 弘人様

質問① 藤原様の略歴について

1985年  同志社大学商学部卒業 同年住友商事株式会社入社

~1992   機電経理部

~1993 通信電子第二部

~1997   トルコ住友商事 アンカラ出張所/イスタンブール事務所

~2000   通信プロジェクト第二部

~2003   ウランバートル事務所所長

~2007   情報通信プロジェクト第二部

~2010   ウランバートル事務所長

~2013   建設機械第三部

~2018   ウランバートル事務所長

~2019   建設機械事業本部

~2020   スタートアップ事業立ち上げ

~現在     建設機械事業本部

質問② 藤原様はモンゴルとはどのような関わりですか?

トルコの駐在から戻った1997年にモンゴル向け通信プロジェクト案件の担当となり、その後携帯電話事業会社Mobicom社の実務担当となりました。2000年に住友商事のウランバートル事務所長として駐在しつつ、現地でMobicom社運営のサポートを行いました。2003年の帰国後も同じくMobicom社ビジネスを担当し、2007年に再度モンゴルへ赴任しました。2009年にコマツ様の代理店事業を開始することとなり、Transwest Mongolia(TM)というコマツ様の鉱山機械・建設機械の販売代理店の設立を行い、これがご縁で2010年帰国時には建設機械事業本部の所属となり、TM案件を担当しました。2013年には3度目のモンゴルに赴任し、Mobicom社・TM社のサポートも行いました。

質問③ 藤原様にとってモンゴルで印象的だったお仕事はどのようなお仕事でしたか?

1)短波ラジオ放送局改修プロジェクト(日本政府の一般無償案件)

第一回目のモンゴル駐在では、短波ラジオの放送局改修プロジェクトを受注・完工しました(2003年)。当時はテレビ放送や携帯電話の普及は主要都市部に限られ、地方の情報収集手段はラジオでした。しかしながら旧ソ連時代の旧式短波ラジオ局は劣化が著しく、受信範囲がかなり小さくなり、人口の半分程度しかカバーできなくなっており、気象情報など重要な情報が地方の人々に届かず生命の安心安全をも脅かすような状態でした。本件推進に当たっての事前調査では、極寒(この時初めてマイナス42℃を経験)の中、何度も遊牧民を訪問して現状調査を行い、悲痛な声を拾い上げました。プロジェクト終了後に同じところにフォローアップ調査に行きましたが、ラジオが聞こえるようになり、日本政府(=日本国民)に感謝の言葉を頂きました。

2)Mobicom案件

本件は事業開始前には、社内審査でも「羊に携帯電話売るのか?」(1995年当時人口270万人:家畜3000万頭)と言われた事業でしたが、幸い初年度より黒字を計上。当方が担当になった後も、加入者の増加に設備の増設が追い付かず、1年中設備増設契約交渉をしていました。何年後かには全住友商事の法人・事業会社の中で利益がトップ10に入るほどに成長しました。この時ニッチなマーケットでの戦い方、胴元商売の重要性、先行者利益というのを体感できました。

3)コマツ製鉱山機械・建設機械販売代理店事業案件

詳細背景は差し控えますが、非常に大きな商権が商社間で移動することはめったにありません。その商社マン人生で一度あるかないかの大きな商権移動に直接関与できたこと、その後の事業の立ち上げができたことは非常にエキサイティングでした。本件は意図して商権奪取を行ったわけではなく、転がり込んできたというのが正しい表現ですが、その転がり込んでくる土壌(人脈・信頼など)を無意識の中で長年積み上げてきていたことが最大の勝因でした。

質問④ 藤原様はモンゴルの魅力と可能性についてどのようにお考えですか?

モンゴルはいい意味でも悪い意味でも人間としての魅力がある国だと思います。先進国の様な倫理や規制などに縛られていない自由な人間としての考えや行動が大変面白いですし、純な面があると思います。例えば当然だまそうとして嘘を言うわけですが、明らかに嘘と分かる嘘をつくので「お前もうちょっと本当らしい嘘つけよ!? しゃあないな!」という感じです。個々の能力としては極めて秀でていると思います。語学は当然ながら、数字に関しても類まれな才能はあると思います。こういった人材・人財の宝庫と思いますので今後人材・人財の活用が大きな鍵になると思います。

質問⑤ 藤原様はモンゴルが発展するためにはどのような課題があると思いますか?

様々な問題があるので、一言でいうのは難しいですが、以下通りです。

1.契約

約束・約束=必ず守るべきものという認識を持ち、実行する事。よくあるのはあの時はできると思っていたけど今は難しいという理屈は通らないという事。

2.計画

今を考えるのではなく、逆算して今何をしないといけないのかを考えること。

3.法治

まだまだ人治によるところが多く、法治にならないといけない

4.他力本願

他力本願ではなく、自力で取り進めること。

5.競争

世界には競争という仕組みがあることを理解する事。

質問⑥ 藤原様のおすすめのモンゴルの観光地はどこですか?

良いところは色々あると思いますが、当方がお勧めする観光地はやはりフフスグル湖です。夏でも空気がピンと張って、凛とした空気の中で色々考えを巡らせる若しくは思考を一度止めてみることは非常にいいと思います。

インタビューの感想

藤原様へのインタビューの中で最も印象的だったことはMobicom社案件のお話しでした。1995年から開始されたこの事業は住友商事の通信部隊として初めて手掛けた通信事業とのことで当時社内においては「羊に携帯電話を売るのか」と言われたという点が非常に印象的でした。今でこそ当時を振り返れば①携帯がステータスシンボルであったこと、②ショートメッセージが主流であったこと、③パートナー企業に恵まれていたこと、④先行者利益により他社の追随を許さなかったこと※(技術的に他通信事業会社との互換性が最初はなった事やそもそも通信事業の参入障壁が高かったことから安定して成長することができた。)などの成功要因があったとのことでしたが、当時モンゴルにおいて前例が無いことに挑戦されたお話をお聞きして、筆者も社会人として働く上で挑戦するマインドを大切にしたいと思いました。

筆者も将来は海外で活躍したいと考えておりますが、藤原様が世界を股にかけてご活躍されてきたお話をお聞きして、改めて海外で活躍したいという思いが強くなりました。卒業までの残り半年間を英語の勉強に努め、英語力を高めたいと思いました。

藤原様にはお忙しい中にも関わらず、インタビューにご協力いただきありがとうございました。この場をお借りして改めてお礼申し上げます。