モンゴルへの経済協力から読み取れること
法学部法律学科2年 古川 真輝
はじめに
私が今回このテーマを選択したのは、これからモンゴルの観光開発について学習や調査をしていく上でモンゴルという国について知っておくべき基礎知識をまとめておきたいという趣旨からである。また国際協力プログラムのゼミ生として、モンゴルへの経済協力をただまとめるのではなく、援助国である日本や中国の経済協力の特徴や強みなどを調査し、経済協力について自分なりの考察をしていきたいと考えている。日本においてのモンゴルについての情報量の少なさからモンゴルという国は日本と同じ東アジアにある国にも関わらず、距離以上の隔たりを感じることが少なくない。しかし、日本はモンゴルに対して多くの経済協力を行っているなど、私たちが知らないだけで日本とモンゴルとの結びつきは強いものがある。今回は経済協力の観点から日本の経済協力の現状や特徴、近隣国の特徴についてなどポイントに分けてまとめていきたいと思う。
日本のモンゴルへの経済協力の歴史
経済協力についての内容に入る前に軽くモンゴルについて確認しておく。モンゴルは人口323万8,479人(2018年末現在)、国土の面積は156万4,100平方キロメートルである。主な輸出品は石炭などの鉱山資源、カシミヤや羊毛といった畜産品が中心である。日本とは1972年に外交関係を樹立した。
モンゴルは1921年から1990年までは社会主義体制の国であった。そのため社会主義時代のモンゴルの貿易協定を結んでいる国というのはソビエト連邦や中国、東ドイツ、キューバといった東側諸国が中心であった。日本は1977年に経済協定を結んだものの、日本は民主主義国家のためモンゴルの社会主義体制中は工場建設の技術支援や人事育成などのごく限られた援助のみの[i]実施となっていた。モンゴルが民主化と市場経済に移行した1990年以降は大規模な二国間援助が実施され、経済協力のトップの地位を占めてきた。2015年にはモンゴル・日本経済連携協定(EPA)を締結し、より深い協力関係を築くための取り組みも行われている。
日本のモンゴルへの経済協力
日本はモンゴルへの開発協力の狙いとして、次のように挙げている。「中国とロシアに挟まれた民主主義国家であり、極めて親日的な国であるモンゴルが、安定的に成長・発展していくことは、地域の安定と繁栄に資するのみならず、我が国との関係発展にとっても重要な意味をもつ。このような認識の下、我が国はモンゴルを一貫して支援してきており、モンゴルの民主化以降の最大の援助供与国である。また、モンゴルは国際社会において重要な各種課題に係る我が国の立場を一貫して支持する友好国であり、我が国が地域・国際場裡における協力を促進していく上で、重要なパートナーである。」[ii]ここから位置関係の重要性や親日的な国としてのモンゴルの安定した発展が日本の発展にも繋がるという狙いを読み取ることが出来る。援助の具体的な例としては、地方開発支援として複合農牧業経営モデル構築支援としての技術提供や、環境保全のための支援として湿原生態系保全と持続的利用のための集水域管理モデルプロジェクトの技術協力、経済活動促進のためのインフラ整備支援として新ウランバートル国際空港建設計画に対しての有償資金協力などが挙げられる。そして、2016年にはモンゴルと日本との間でEPA(経済連携協定)が発効し、関税の撤廃などによってより活発な貿易を行うための政策がとられている。2018年まで日本向け免税対象品目の輸出は増加していたが、2020年からは世界中での新型コロナウイルスの拡大に伴い、2020年1~5月は前年同期比59.3%減少した。
日本の経済協力の強み
日本のODAの基本方針としては、持続可能な経済成長の実現と社会の安定的発展というものである。つまりどういうことかというと、一方的な援助を行うのではなくあくまでも被援助国この場合はモンゴルの自主的なイニシアティブを前提として、持続可能な発展を図ることのできるように援助をしていくということである。その表れとして日本のモンゴルに対しての援助形態の特徴に表れている。下の表は外務省が公開している日本のモンゴルへの援助形態をまとめた表[iii]である。この表からも読み取れるように、日本のモンゴルに対する援助は有償資金協力の方が無償資金協力よりも多いということが分かる。このような援助を続けていくことはモンゴルの発展に役立つだけではなく、有償の支援であることから被援助国の自立を促す役割を果たすことができ、そして日本の企業の進出の足がかりとなることができるという両者にメリットの多いものである。この点が日本の経済協力の強みと言える部分であると考える。また、新国際空港の建設によって日本とモンゴルの行き来がより容易になることのきっかけになり得るものであるため、両国の観光面においてもメリットの大きい事業である。日本はOECD(経済協力開発機構)に参加している国の中でモンゴルの経済協力に最も多い支出総額を誇っており、日本のモンゴルへの援助の重点性がうかがえる。
中国の経済協力について
上記では日本のモンゴルに対する経済協力の特徴や強みをまとめたが、同じくモンゴルに対し様々な援助を行っている中国の援助についてまとめていきたい。モンゴルと中国は以前まで同じ社会主義体制の国であり経済協力が行われていた。モンゴルの輸出のおよそ9割が中国向けであり、GDPに占める割合は5割に達するほどである。今現在では経済協力というよりは、中国の一路一帯をスローガンとした活発なインフラ整備などが行われており、モンゴルの中でもとても影響力を誇っている。モンゴルも日本と同様に中国との貿易の割合というものが高く、日本以上の依存をしている。中国の援助はインフラ投資といった性質が強いため日本や韓国といった国が行っているODAの概念はなく、支援と投資の区別は曖昧なものである。貿易において2019年は輸出輸入ともに中国が取引相手国第一位である。下の表はモンゴルに対する直接投資についてのグラフである。中国は投資において大きな割合を占めていることが読み取れる。このように中国は貿易において他の国を圧倒するような差をつけモンゴルとの深い関係をもち、投資においても大きな割合を占めている。
中国の開発の特徴
先ほど述べた通り、中国は一路一帯をスローガンに豊富な資金力を生かして援助を受ける国のインフラ整備などを行うことに力を入れている。この動きは日本のODAの基本的方針の、被援助国の経済的な自立を目的しているものとは180度逆の方針があるとされている。それは。多額の援助を行うことで被援助国内での中国の影響力を高めていこうとする外交に結果的になっている場合が多い。中国のインフラ整備による貸し付けによりスリランカでは貿易の重要な一つの港の99年間運営権を中国の企業に譲ることとなった。[iv]中国は実際にスリランカの事例を挙げた通り、莫大な貸し付けを行うことで相手国での影響力をとても強めている現状がある。この手法では世界中の被援助国に対する中国の影響力が増すばかりではなく、持続的な成長からの経済的な自立を被援助国は果たせない状況に陥ってしまう恐れがある。日本をはじめとするOECDに加盟している国々は中国のこういった行動に対して、方針を転換するよう様々な働きかけを行う必要があると考えられる。
二つの方針を比較して
ここまで日本と中国のモンゴルに対しての経済援助の方針についてまとめてきたが、客観的に考え私自身としては被援助国の自立を前提とした支援を行う日本の方針をより進めていくべきであると考える。中国の支援というものは、潤沢な資金力を利用しているものであり、自らの影響力を高めることを念頭においている点は経済協力の協力という本質から乖離しているものではないかと考えられるからだ。モンゴルにおいて日本と中国のどちらも経済協力に力を入れている中で、スリランカの港の使用権の譲渡のようなことが発生しないようにするためにも日本を中心としてODAとしての援助のあり方を世界に向けて発信していくことが必要であると感じる。モンゴルは中国中心の貿易体制を脱するために、日本などの第三国との貿易の活発化を図っていきたいとしている。モンゴルにおける貿易に関して中国の影響が他の国と圧倒的な差をつけて強いものがある以上、日本としては2016年にモンゴルと締結したEPAをきっかけにより活発な貿易を行うことで、モンゴルの中国に対する依存の解消への手掛かりにもなりうると考えられる。
まとめ
今回のレポートにおいて、モンゴルに対する日本の経済援助の実情の調査から同じくモンゴルに多くの援助を行っている中国の援助の方針をまとめ比較したことで、経済協力ひとつをとっても国によって援助の方針が異なり利害が対立しているということを理解することが出来た。経済協力を行うことで国同士のつながりを深めるきっかけにはなると思うが、国の利益のみを考えた、行き過ぎた方針はつながりを深めるどころかかえって悪くするものであり、協力ではなく一つの商売のようになってしまう。私は高校までの授業において経済協力について学習した際には経済協力の良い面のみを見ていたので、今回のリサーチによって発見したことは意外であったが視点を増やすことのできる良い機会になったと思う。これからゼミにおいて観光開発の研究を行っていくうえにおいても、一点だけを見るような視点ではなく、より幅広い多面的な視野を持ちながら研究を行っていくことを意識していこうとレポートの作成において感じることができたので生かしていきたいと思う。
モンゴル国立大学との交流
- モンゴル国立大学との交流について
私はモンゴル国立大学のエルフビルグーンさんと交流をした。エルフさんはモンゴル国立大学の四年生で日本の調停の制度などが関心分野であった。趣味がバスケットボールや運動をするという点は私と共通する点であり、勝手ながらではあったが初めから親近感を持っていた。
モンゴル国立大学の方たちと交流をしてよかった点としては、日本でインターネットを活用して資料を集めるより、正確で大量の情報を集めることが出来た点である。エルフさんの回答には、自分の知りたかった回答のみならず、質問と関連した新聞記事を添付してくださっておりより深く自分の知りたかった分野について学ぶことが出来た。また今現在のモンゴルでの現状を知ることが出来た点は、他の資料集めの方法と比較して優れた点であると感じた。一方、交流をして困った点としては交流を行った時期がモンゴル国立大学のテスト期間と重複したため、質問のやり取りが予定どおりにいかなかったことがあったことだ。予定に関しては仕方のない点ではあるが、個人的な調査の方法と比較すると困る点であると思う。
- 国立大学側からの質問と回答について
エルフさんからの質問の内容は、「日本の高齢化について」、「高齢化に対して日本にはどのような法律があるのか」、「日本政府はどのような対策をしているのか」であった。具体的な回答として、「日本の高齢化率はWHOによると21%であるとされている」、「日本には平成七年に公布、施行された高齢社会対策基本法がある」、「政府としては一億総活躍社会をスローガンの下、多様な取り組みが行われている」を挙げた。引用は内閣府や国土交通省など公的な機関のものを使用した。このテーマに関するリサーチは、自分の中で漠然とあった日本の高齢化問題についての理解を深める良い機会になったと感じた。リサーチを進めることで、自分の知らなかった日本の現状やそれに対する現時点の政府の施策などを知ることが出来たと思う。また、外国のことについて理解するためには文字からだけの情報では理解することが難しいと感じたため、図表やグラフを使った論文と、日本の新聞社が取材していた記事と動画を合わせて添付した。
- こちらからの質問と回答について
私からの質問の内容は、「モンゴルの首都ウランバートルでの大気汚染について」、「それに対するモンゴル政府の対応や法律の制定」であった。エルフさんからの回答としては、2018年にモンゴル政府が「大気汚染の削減に関する対策」についての決議をしており、石炭から改良固形燃料への段階的な移行やゲル地区に住んでいる人々への改良固形燃料の供給など大気汚染改善に向けた具体的な取り組みが行われているというものだった。また、私の質問の回答のみならず、日本語版のモンゴルの大気汚染対策に関する記事を添付してくださっており大変興味深かった。特に改良固形燃料を導入後に一酸化中毒問題が多発したことがあったようで、この事実を知り大気汚染対策も一筋縄ではいかない難しい問題であるということを改めて実感させられた。
- 交流から分かったモンゴルの大気汚染問題
モンゴル国立大生との交流を通じて、モンゴルの大気汚染問題についての記事を読むことでその関心が高まった。リサーチを進めると、モンゴルにおいて有害物質によって大気が汚染される原因の一つとなっているのが、ゲルにおける石炭ストーブの排煙である。首都ウランバートルで2016年には併せて3300人が大気汚染を因とされる病気で亡くなったと推測される。中でも子供は、大人と比較して呼吸の回数が多いことや、呼吸をする高さが低いため滞留した汚染された空気を多く吸うことから重篤な被害を被っている。[v]まだ深く研究は出来ていないが、この大気汚染の問題は私が前期調査していた経済協力の分野と深く関わっていると思われる。今現在ゲルにおいて石炭ストーブを多く使用しているのは、石炭と比べ電気が高価なことが理由として挙げられる。このことから、経済協力と大気汚染改善の動きを両立した動きをこれからは強く求められるのではないかと感じた。このことは、高度経済成長期における公害問題を克服し工業を発展させてきた日本の経験はこれからのモンゴルの経済発展の中で役立てることが多々あると思う。今年度は深くリサーチをすることは出来なかったが、来年度以降モンゴルの観光開発や経済協力の分野の研究と関連づけて研究していきたいと思う。
【参考文献】
[i] 「モンゴル国と日本国の経済協力関係」「モンゴル国の貿易発展状況と拡大」「モンゴル・日本経済連携協定」(EPA) 駐日モンゴル国大使館 臨時代理大使 ダンバダルジャー・バッチジャルガル 2017/10/25
[ii] 対モンゴル国 国別開発協力方針 外務省 平成29年12月
[iii] 政府開発援助(ODA)国別データ集2018 外務省
[iv] AFPBB News スリランカ、ハンバントタ港の運営権を中国企業に譲渡 インドなどが懸念 2017/7/30
[v] 「世界最悪」の大気汚染:モンゴル/GNV/2020/12/31