小林大使: モンゴルのスペシャリストが語るモンゴルとは?

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人物紹介

小林弘之在モンゴル大使

中央大学法学部法律学科を卒業後、外務省に入省。

現在、モンゴル国駐箚特命全権大使を務めている。1985年にモンゴルを訪れて以降、三度目のモンゴルへの赴任。

※在モンゴル大使館ホームページ:https://www.mn.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html

取材意図・目的

筆者は「モンゴルの観光と発展」をテーマに研究する上で、実際にモンゴルで2019年に現地調査を行った結果、モンゴルには自然豊かな観光資源があることを知り、より多くの日本人にモンゴルの大自然を味わってほしいと思いました。この経験を踏まえてInstagramでの情報発信などを中心に活動する中で、今回ホームページの開設にあたりモンゴルのスペシャリストとして日本とモンゴルとの関係の発展にご尽力されている小林大使のご経験やご意見をお聞きしたいと思いインタビューさせていただきました。

コロナ前とコロナ禍でのモンゴルの変化について

2020年にコロナが蔓延し始めた頃からモンゴルは他国に先駆けて国際便を運休するなど迅速な対応を行いました。これは、医療体制が日本のように万全ではなく、一度感染が蔓延すれば壊滅的な状況になるということを考慮した上でのものです。最近ではワクチンの接種も積極的に行っていてコロナの封じ込めに国一丸となって対策を講じています。

コロナによる大きな変化は二つありました。まず、他の国と同様に経済面で大きな打撃を被りました。モンゴルの大きな収入源である石炭や銅の輸出が伸び悩み、2020年のGDP成長率は前年比で-5.3%という結果になってしまいました。その反面、コロナ対策で在宅学習に切り替わり、保護者が子供たちを学校に車で送迎することが無くなりましたので、皮肉にも、以前から問題であったウランバートル市内での朝夕の交通渋滞が大きく改善しましたし、排気ガスの減少でウランバートル市内の大気汚染も改善しました。

小林大使がおすすめする観光地3選

1.ホブド県:4000m級の山、草原、湖、砂漠といったモンゴルの大自然を一つの県で楽しむことができます。モンゴル特有の歌唱法(ホーミー)の歌手を多く輩出する県としても有名です。

2. テレルジ国立公園:ウランバートルから車で約1時間の距離で、チンギスハーンの騎馬像なども近くにあります。モンゴルを短期間で楽しみたいという方々には気軽にアクセスできる点がおすすめです。リゾート施設も比較的充実しています。

3.フブスグル湖:モンゴルのスイスと呼ばれていて、世界で二番目に水質がきれいな湖です。7月から8月にかけては非常に景色がきれいです。また、冬になると湖が全面凍結し冬には違った一面を楽しむことができます。一年中、様々な楽しみを提供してくれる点が魅力です。

2021年より開港予定の新ウランバートル国際空港について

コロナ前の2019年度は約2万5千人の日本人がモンゴルを訪れました。コロナの影響がいつまで続くか分からないですが、日本モンゴル友好関係促進の観点からも、まずはコロナ前の水準(約2万5千人)に早く戻って欲しいと願っています。その上で、将来的には約10万人まで日本人観光客が増えることを期待しています。実はモンゴルにとって観光産業はGDPの約12%を占める重要な産業です。2030年に向けたモンゴルの開発ビジョン(※コロナ前のビジョン)の中で2025年までに150万人、2030年までに200万人の観光客誘致を目指しています。この非常に大きな目標を達成するのは容易ではないと思いますが、地方への観光客誘致を含め観光インフラの整備を進めることが目標達成の課題です。モンゴルの醍醐味は大自然。人の手が加わっていない自然を生かした観光地へのエコツーリズムが盛んになればモンゴルの観光の発展につながると考えています。また、日本―ウランバートル間の航空便もMIAT(モンゴル航空)が独占している状態です。将来的には日本の航空会社に参入してもらうことで価格競争が起き、日本人にとってモンゴル渡航のハードルが下がることを期待しています。

オヨーンエルデネ首相は本年7月1日に新ウランバートル国際空港開港を目標として掲げています。日本の援助で建設された同空港がモンゴルの観光業の発展にも大いに貢献するものと期待しています。

モンゴルを訪れる観光客を増やすために必要なこと

筆者は2019年に実際にモンゴルを訪れて事前のモンゴルのリサーチなどからモンゴルの情報が少ない点が課題であると考え、Instagramなどを通じてモンゴルの魅力・情報発信を行ってきました。小林大使にモンゴルを訪れる観光客を増やすために一番大切なことについて聞いてみました。

小林大使:日本人に限らずモンゴルを訪れる観光客を増やすために必要なことは「またモンゴルを訪れたい」と思うような観光開発です。例えば航空運賃の改善や日本だけでなく他国に対しても査証免除により観光客が訪れやすい環境の整備が必要です。

※査証免除:韓国やロシアは既に査証免除されているが、中国は査証免除されていない。

2022年に日本とモンゴルの外交関係樹立50周年を迎える中で、小林大使が考える日本とモンゴルの関係について

どんなことが国際情勢で起ころうとも、両国が引き続き同じ価値を共有し、お互いを尊重し、補完的で協力しあえる関係を築いていきたいです。このためには両国間でヒト、モノ、カネ、情報を円滑にやり取りできる環境の整備が不可欠です。

国交を樹立したのは1972年の2月24日。当時は冷戦時代で両国はそれぞれ異なる陣営に属していましたので、両国関係は必ずしも良好とは言えませんでした。1990年のモンゴルの民主化以降、日本はODAなどによりモンゴルを積極的に支援してきたこともあり、日本とモンゴルは良好な関係が築けています。しかしその背景には、冷戦時代から両国の関係者が地道に関係を構築してきた基盤があったことを忘れてはなりません。また、人口約340万人のモンゴルから日本には3300人前後が現在留学しています。モンゴルの若者が日本に関心を持ち、日本についての理解を深めてくれていることは非常にうれしいことです。両国関係を促進する観点から、私自身は、日本からモンゴルへの投資が増えて欲しいと思っています。大使館としても日本からモンゴルへ進出を考えている企業を支援していきます。

初めてモンゴルを訪れた時と現在のモンゴルで変わったことについて

社会主義から自由・民主主義に移行したのがモンゴルの一番の変化です。

初めてモンゴルを訪れたのは1985年の8月。当時はまだ社会主義の時代で、モンゴル国民は情報へのアクセスを制限されていましたし、思ったことを自由に話せない厳しい国情でした。そして何よりも、当時モンゴルは渡航が難しい国でした。それこそ日本から北京に飛行機で行き、そこから鉄道で何十時間もかけてやっと辿り着ける国でした。しかし、今では成田からの直行便で約5~6時間でアクセスが可能です。加えて民主化によって情報へのアクセスや発言についても自由が認められています。

初めてモンゴルを訪れた当時から変わらないモンゴルの良さや魅力について

モンゴルの雄大な自然は今も昔も変わりません。他にも社会主義の時代から「家族を大切にする心」をモンゴル人は変わらず持ち続けています。また、モンゴル人の国民性として、普段はのんびりとしているにもかかわらず、いざという時は瞬発力を発揮するということが挙げられましょう。更に、日本とは大きく異なる自然の厳しさゆえに忍耐力も強いと思います。厳しい自然環境の中で、自然と一体となった伝統的遊牧生活を営んでいるモンゴル人には心を打たれます。

取材の感想・考察

清水ゼミは情報発信を中心にモンゴルの観光と発展にアプローチを続けてきましたが、インタビューの中で「日本人観光客だけでなく、全ての観光客がモンゴルをまた訪れたいと思うような観光開発が必用」と小林大使が仰っていた点が非常に印象的でした。筆者も2019年にモンゴルを訪れましたが、あれから二年たった今、またモンゴルに行きたいという思いは強まるばかりです。筆者はタイ、フランス、イタリア、ドイツ、スイスなど8カ国を旅行してきましたが、360度どこまでも広がる草原の中でのゲルへの宿泊、満天の星空、砂漠はモンゴルでしか体験したことがありません。今回の小林大使へのインタビューを通して改めてモンゴルの大自然は魅力的な観光資源であること、そして今後はリピーターにつながる観光開発が大切であることを再確認しました。小林大使にはお忙しい中にも関わらず、インタビューにご協力いただきありがとうございました。この場をお借りして改めてお礼申し上げます。